音について考える前に、まず他の現象を見てみることにします。例えばカラーテレビのブラウン管には、赤青緑の光の3原色が配列されています。そしてこれら3原色のパターンを電子線で組合わせ発光させることにより、幾通りもの色を再現します。カラー印刷も同様、色の3原色赤青緑を基本に多様な色を表現します。これらのことから色は、原色を中心にして混合される事により、全く別の色に変化する性質を持っていることが分かります。
音ではどうでしょうか。一本のマイクロホンでオーケストラ演奏を録音したとしますと、マイクロホンで拾われた音声は、一本の電気信号となり、各楽器群の音はその一本の波状信号(アナログ信号)の中に収められます。色の混合と同じ状態になっています、がしかし、この電気信号をスピーカで音という形に変換されると、バイオリン、ピアノ、ボーカル...各楽器の持つ固有の楽音が、混合することなく、明瞭に聞き分けることができます。当然のことなのですが色の混合の現象からみると、非常に不思議なことと言わざるを得ません。音とは、何か特別な性質を持っているいうことが知れます。合成の出来ない性質ということから、音は3次元の性質をもっている、と考える以外には他にありません。
色は、色合い(X)、明度(Y)より2次元情報、つまり平面的な情報であるために、合成する性質を持つことになります。それに対して、音の現象では、色合いに相当する周波数X軸、明度に対応して振幅(レベル)をY軸と考えると、もう一つの次元、時間軸(Z)があると考えらます。
音は時間軸という次元を更に持った立体情報であるために、X、Yの値が同じ複数の音であっても、時間(Z)軸の位置がずれている為、混音されないことになります。そしてこの時間軸の成分は、音を混音から防ぐばかりでなく、音質を決める重要な要素になると考えられます。そう考えると今迄オーディオ・コンポーネントに在った音の不思議さ、データだけでは音質を語れない、といった疑問が明らかとなってきます。
長年に亙る研究の結果、カートリッジに於いて、発電の系で様々な時間軸の要素に作用する弊害が存在し、それは再生音のクォリティーに非常に影響を与えている事が判明しました。それは発電量に応じて磁気回路に発生する逆起電力であり、渦電流であり、動的誘導磁界であったりします。これらは発電信号の時間軸に乱れを起こさせます、時間の歪みといっても良いでしょう。前項で述べた左右の音質の違いは、90度直交して配されている左右チャンネルの発電コイルに、弊害信号が結果的に異なるベクトルで作用して起きた一つの症状といえます。
(X、Y)で示されるデータで表せられる要素も大切ですが、データで示されないZ軸のファクターこそ、音のクオリティーに直接関係する基本となるべき最重要な要素となります。
このことから、レコードのRECORDINGは、録音と訳すのではなく、録時と訳すのが適切ではないかと思われる程です。演奏している時間が記録され、一定の速さで過ぎ去る時間(Z)にそって、(X、Y)の成分が立体的に記録されていく…。従って正しい再生は、演奏していた時点と同等な時間要素をもって、原時間を再生して、始めて得ることが出来るのです。